入院に必要なものをバッグへ詰める |
外科先生が以前勧めてくれた言葉通り、母親のためというより介護してる俺に気を遣って。
念のため、再度レントゲンを撮る。
頸椎がつぶれていて、そこに神経が挟まり、苦痛を訴えていたが、定期的に打ってる注射と飲み薬のおかげか、最近は痛みが治まった。
念のため、レントゲン写真を前に先生が2~3質問する。
こういうとき、何故かお袋は見栄を張る。
「私は店をやっているので身体が丈夫。なんともない」
痛くて寝てるくせに・・・・
「私はね、人の世話になんかならない」
毎日介護ヘルパーに尻ふいてもらってるくせに・・・
いつもは、うつむいて足元を見ながらヨタヨタ歩くくせに、今日はアゴをあげ、手を振ってスタスタ歩く。
ま、どうせ入院なんだけどね。
虚勢を張る母を車いすに乗せ、4床病室へ。
途中、認知を担当する先生からのアドバイスで、個室に切り替え。
一人で出歩いてしまわないよう、ナースステーションの横の個室を用意。
母親の認知を理解し、院内で先生同士が連携しあっているのは非常にうれしい。
担当のナースも、「17年間もお一人で介護を?それは中々できないと思うわ。息子さんが少しでも楽になるといいわね。」と、俺に声をかけてくれる。
昼のカレーを食べたらスヤスヤ |
個室で入院手続きを済ませ、一通りの説明を受けて、昼食。
2割程度食べたら、すぐに横になって寝てしまった。
多分、気を張って疲れたんだろう。
そうだ、今の隙に入院用にもうちょっとバスタオルや寝間着、下着類を買い足しするか。
一旦家に帰り、向かいの食堂で、虚勢を張って歩く姿を面白おかしく皆に話し、コーヒー飲んで一休み。
家に戻って、誰もいなくなった母の部屋を眺める。
片付けた布団。
整理整頓した棚。
キレイに拭いた床や障子。
こないだ買ったイミテのカーネーションの一輪挿し。
どれもみんな昨日のうちに自分が済ませておいたもの。
亡くなったわけでもないのに、なんだか虚空な空気感が自分の張りつめていた感情を揺さぶる。
なんだか、ポロリと涙が伝う。
ベッドの上で猫が主人を待つように丸くなって寝ている。
どんなことがあっても、母を看るんじゃなかったっけ?
寝付くまで毎晩肩をなでてあげるんじゃなかったっけ?
自問自答・・・・
いやいや、とりあえず入院するよう促したのは医者だし。
まずは現実を見よう。
買い足しを優先しなきゃ。
食堂の看板娘を借りて近所で下着や寝間着を買ってもらっている最中、病院から携帯に電話。
「至急来てください!」
やや!状態が悪化したか?
とりあえず会社に電話し、明日も休めるようお願いしておこう。
急いで病棟へ。
315号室・・・315号室・・・・
階段で3階へ駆け上がる。
エレベーターホールに到着し、中央ナースステーションへ。
ん?
ナースたちと一緒にステーション内で煎餅喰ってるのは母親じゃないか?
なんだ?どういうこと?
担当の、さっきのナースが母親を連れて出てくる。
「まずは、個室でお話しします」
内容は、母が個室から度々出てきてしまい、色々なところに出歩いてしまって、これ以上管理できないため一時的にナースステーションで預かっていたとのこと。
また、排泄処理なども言うことを聞いてくれず、手を焼いていて困っているのだ、と。
言いづらそうに、毎晩付き添ってほしい、と。
要は帰ってほしい、ってわけ?
自分の頭から角が出始める・・・・
「おう、ねーちゃん。おまえ数時間前に、俺に気を遣って「介護が楽になったらいいです」って言わなかったか?どの口が言ったのか、言ってみろ、ア?」
「担当のニーちゃん、オメエだよ。お前が入院勧めたのに、なんで退院させるわけ?振り回した理由を言ってみろや」
湯気も出る・・・・
「いったい何が問題なんだ?ウチの母親か?それとも医者は大丈夫と思ってたのに、ナースが連携できなかったっていうオチか?」
「いざとなったらだれに責任があるのか?とかそういった話し合いで、患者に対する判断じゃなく、自分の責任の判断か?」
あまりにも腹が立ち、タンカ切って退院することに。
「請求がありますので・・・」と白々しくナースが言い出す。
ひと睨み・・・・
「今日はいいです。どうぞお帰りください。あ、コレ、保険証と診察カード、お返しします」
皆の前でおもむろに介護センターへ携帯し、大声でケアマネージャーに連絡する。
「ここの病院は、介護者には「預かる」と良いことばっかりいって、結局、いざとなったら逃げ口上。介護者も入院患者もいい迷惑。これが病院だよ。で、昨日キャンセルした介護のことなんだけど、明日から、頼める?え?ダメ?」
再度、医者とナースを睨みつける。
電話口では、ケアマネはダメなんて言ってないけど・・・・
うなだれる医者と看護婦。
「どーする?オタクら?」
言葉で突き刺し、ひととおり買い足した荷物持って、状況も良くわからずポツポツ歩く母を連れ、自宅へ戻る。
母親を部屋へ戻し、荷物を廊下へ投げ捨て、再度担当医へ電話。
納得いかない。
結局、看護婦たちから、ずっと看ていられないという抵抗意見があり、医者の考えと衝突したんだと。
でも、医者だろうが、看護婦だろうが、こっちから見りゃ病院は病院。
内部事情ってもん。
向かいの食堂へ駆け込んで事情話すと、実は食堂のおばあちゃんも同じだったとか。
おだやかになだめられ、カツライス食べたら落ち着いた。
俺の心の医者は、ここにいる。
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