2010年10月15日金曜日

守っていくこと

人は老いていくといろいろなものを失っていく。

体力、気力、洞察力、判断力、収入、貯蓄・・・
伴侶や子供、自分を取り囲んでいた家族・・・

笑顔、会話・・・

だから、失うことを嫌い、心配する。
それは、お金、身の回りのものや、家族からの思いやりなど・・・

いつしか、自分の感情も、失っていく。

思い出せるものだけが大切な宝となる。
小さい頃の楽しかった出来事や、学生時代の切ない想いでとか・・・

一方、新しい記憶は、泡のように消えてなくなる。

季節がわからない。
時間がわからない。
味覚やにおいがわからない。

あんなに得意だった料理ができなくなった。

冷凍ピラフをそのまま食べる母の姿は、見るに耐えがたい。

なぜか靴下が片方だけしか履けない。
なぜか風呂のアカスリで手を拭く。


夕方になると寂しくなる。
すーっと出掛けてしまう。
やがて、向かいの家から、なだめられながら帰ってくる。
なぜか空っぽの紙袋と、古いサンダルを手に、感情のない目で俺をじっと見ながら・・・

気丈だった母が、ゆっくり、ゆっくりと崩れていく・・・
蝋燭が解けるように・・
時折、じっと自分の手を見つめている。
薄い皮だけが張り付いただけの、しわだらけの、曲がった指を、じっと見ながら、記憶を探している。

そんな母に何をしてやれるだろう。
早くに亡くした父の存在を埋めるように、一生懸命になって俺のことを育ててくれた、大切な母に・・・

老いや認知症を治すことはできないけど、俺のことを忘れないで、覚えていてくれるまで、傍にいてあげよう。
いつか父のもとへ踏み出すまで、傍で笑って、温かく接してあげよう。

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